「生きているこどもたちの声」から考える、こどもの心の危機と、私たち大人ができること【最新の調査研究より】

こどもの心の健康

近年、小中高生の自殺者数は増加傾向にあり、非常に痛ましいニュースに胸を痛められている親御さんも多いのではないでしょうか 。

朝、我が子が起きられなかったり、学校に行き渋ったりする姿を前にして、「この子は大丈夫だろうか」「何か深刻なことを考えているのではないか」と、焦りや不安を募らせてしまうのは、親としてごく自然なことです。

今回は、こどもの自殺対策やインターネット相談を行う「特定非営利活動法人OVA(オーヴァ)」が、こども家庭庁の助成を受けてまとめた『令和7年度 こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究 報告書』のデータを紐解いていきたいと思います。

この調査の最大の意義は、亡くなった後の分析だけでなく、インターネット上の相談や掲示板で「悩みを抱えながらも、いま生きているこどもたちの主観的な声」を可視化した点にあります。

不登校支援の現場とも深く重なるこのデータから、私たち大人がこどもの命と心を守るために知っておくべき「危機の深まり方」と、回復を支える「保護因子」について整理してみましょう。


1. こどもの心の危機はどうやって深まっていくのか?(危機の時系列プロセス)

こどもの危機は、ある日突然、完成した形で現れるわけではありません。

報告書では、こどもたちがメール相談に至るまでの人生の歩みの中で、抱えてきた困難がどのように連鎖し、深まっていったかが時系列(平均出現順位)で可視化されています。

  • 初期(危機のスタートライン) 最初に生じるのは、「家族機能の問題」「虐待・暴力」「学校での人間関係」といった、こどもを取り巻く「環境」の歪みや困難です。
  • 中期(内面への取り込み) 環境の困難が続くと、徐々にこどもの内面に変化が生じます。「精神的不調」や「自己への否定的認知」(自分は価値がない、申し訳ないなど)、「心身の不調」(眠れない、頭痛、消化器症状など)という形で、つらさを心身の内側へと抱え込んでいきます。
  • 直前期(切迫したSOS) 内面の苦痛が限界に達すると、「切迫した心理的苦痛」(死にたい、消えてなくなりたいという間接的な希死念慮)や、自らを傷つける「自己破壊的行動」(リストカット、過剰な服薬など)が引き起こされます。そして最終的に、具体的な方法を考える「自殺の具体化」や、命を絶とうとする「自殺の行動化」へと繋がってしまう可能性が示されています。

不登校の初期段階で、朝起きられなかったり、体が動かなかったり、お腹が痛くなったりするのも、まさにこの「中期の心身の不調」=心からのSOSであることが少なくありません。

2. 「高リスク」の背景にあるもの:家庭と学校の役割の違い

調査では、自殺のリスクが極めて高いとされる「高リスク相談者」(自殺念慮尺度の高い群)と、そうではない「低・中リスク相談者」を比較し、それぞれが抱える悩みの特徴を明らかにしています。

ここには、保護者の皆様の肩の荷を少し軽くし、かつ適切な警戒を促す重要なデータが含まれています。

  • 高リスク層に極めて強く結びついている要因(家庭の問題) 自殺の危険性が最も高まっているこどもの背景には、「性的虐待」「ネグレクト」「身体的虐待」などの深刻な虐待体験や、「保護者の不貞行為」「家族間の不仲」「経済的困窮」といった、深刻な「家庭内の課題」が存在している確率が統計的に有意に高いことが分かりました。
  • 低・中リスク層に多く見られる悩み(学校生活の課題) 一方で、「学習・成績での悩み」「将来・進路での悩み」「部活・課外活動での悩み」といった学校生活における悩みは、統計的に「低・中リスク層」においてより多く出現しやすい(高リスク群では主訴になりにくい)ことが示されています。

これは、「学業や進路、部活の悩み自体が、直ちに命に直結するような致命的なリスクになるわけではない」ということを意味しています。

では、何が明暗を分けるのでしょうか。

それは、学校や社会で傷ついたこどもにとって、「家庭が安心して力を抜き、羽を休められる安全な場所(シェルター)」として機能しているかどうかです。

「不登校を早くなんとかしなきゃ」「勉強の遅れを取り戻させなきゃ」と、家庭の中でも登校や学業への成果を急かしてしまうと、こどもは家でも緊張を強いられ、逃げ場を失ってしまいます。

家の中を「否定されない、急かされない、比較されない空気」に整えること。

それこそが、最悪の事態を防ぐ、最も強力な砦になります。

3. 中学生と高校生で異なる「悩みの特徴」

また、年齢層によっても悩みの質や、大人が注意すべきポイントは大きく変化します。

  • 中学生(11〜15歳)の特徴:他者へのSOSが苦手 中学生期は、学校内の対人関係が直接的なリスクになりやすい一方、「他者に助けを求めることへの困難さ(援助要請行動困難)」を抱えている割合が統計的に有意に高いことが示されました。 「こんなことで相談していいのかな」「親や先生に迷惑をかけたくない」と一人で抱え込んでしまい、大人が気づかないうちに突発的な行動に移行しやすい脆弱性があります。
  • 高校生(16〜18歳)の特徴:社会生活の広がりと過多な負担 行動範囲が広がる高校生になると、進路や受験等の活動の増加に伴う「多忙・過負担(キャパシティオーバー)」や、恋愛関係、社会的規範(〜であるべきという価値観)の内在化、他者からの評価への過敏さといった「家庭・学校以外での悩み」が有意に増加します。

低年齢のこどもに対しては「大人が積極的に関わって、SOSを汲み上げる(相談しやすい環境を作る)」ことが大切であり、年長層に対しては「プレッシャーを和らげ、本人のありのままを受け入れる」姿勢が、それぞれ重要になります。

4. こどもの心を踏みとどまらせる「保護因子」とは?

本報告書の中で、私が非常に感銘を受け、これからの支援にもより強く取り入れていきたいと感じたのが「保護因子」に関するデータです。

保護因子とは、自殺という最悪の選択を食い止め、困難な状況下でも心身を支え、回復へと導く心や環境の特性のことです。

自殺念慮が深刻化しにくい、または深刻化する前に相談へ繋がることができた「低・中リスク群」に顕著だった保護因子には、以下のようなものがありました。

  1. 他者への信頼感(周囲の人に心を開ける感覚)
  2. 学校への愛着・帰属意識
  3. 将来への希望・人生の有意味感(未来への関心や計画)
  4. 家族との円滑なコミュニケーション

特に注目したいのは、家庭環境における保護因子として、単なる「家族の関係性」以上に、「日頃からの円滑なコミュニケーション(対話や相談、気持ちの共有)」が、極めて強い保護的な関連を示していた点です。

こどもが深刻な危機に陥るのを防ぐためには、単につらい原因(危険因子)を無理に取り除こうとするだけでなく、「日常の中で、話を聞き、共感し、信頼関係を厚くしていくこと(保護因子の強化)」のほうが、遥かに強力な予防策になります。


【まとめ】 一人で背負わず、外のつながりを頼ってください

この報告書のデータを読んで、「やっぱり家庭が大切なんだ」「自分の育て方や家庭の状況が、こどもを追い詰めていたらどうしよう……」と、ご自身を責めてしまう親御さんもいらっしゃるかもしれません。

しかし、どうか自分を責めないでください。

不登校の要因は、環境のミスマッチや本人の気質、脳の発達特性など多様であり、決して「育て方」だけのせいではありません。

そして、親戚の言葉やネットの様々なアドバイスに振り回され、ご自身が極限のストレスの中で闘っているからこそ、不安を抱えてしまうのです。

保護者自身が不安でいっぱいの状態では、こどもも家の中で心から安心して羽を休めることができません。

こどもの心の健康(保護因子)を守るために、最も必要なのは、「保護者ご自身が孤立せず、安心していられる環境を作ること」です。

家庭だけで全てを抱え込む必要はありません。

学校や自治体、そして私たちのような民間の相談機関など、外とのつながりを頼ってください。

ティーンズ・プレイスでは、代表である私自身の不登校経験と、心理・福祉(社会福祉士、精神保健福祉士)の専門資格を活かし、学校の出席扱いといった実務交渉(福祉)から、こどものありのままを受け止める対面・オンライン面談(心理)まで、親子が安心して次の選択肢を選べるように伴走をしています。

「どうしていいか分からない」「うまくまとまっていない」という段階でも、全く構いません。

まずはその、張り詰めた心の荷物を、少しだけ私たちに降ろしに来てください。

初回相談(60分)は無料で、無理な継続のご案内も一切ありません。

焦らず、一歩ずつ、一緒に整理していきましょう。